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自然にも人にも優しい「農家×パン」。移住して夢へと歩む夫婦の物語

2022.03.08

「86farm&まころパン」岩切 啓太郎さん・康子さん(福知山市)


今回は京都府北部、由良川が流れる福知山市に移住して、「86farm&まころパン」を営む岩切さんご夫妻にお話を伺ってきました。
自然栽培の農業をして6次産業化していきたいと考えていた啓太郎(けいたろう)さん、ずっと食の世界で生きてきて、パン教室の夢を描いていた康子(やすこ)さん。そんな2人が世界一周の船旅で出会い、福知山に移住してお互いの夢を叶えながら、さらなる夢へと挑戦しています。
どうして「農家×パン」を始めようと思ったのか?移住後どうやってコミュニティを広げていったのか?お二人の今までの軌跡をお伺いしながら、「まだまだスタートしたばかり!」と話す今後の夢についても語っていただきました。

目次
■ プロフィール2人が世界一周の船旅で出会い「農家×パン」に至るまでのストーリー食品ロスゼロ。6次産業化して循環する、自然にも人にも優しい仕組み福知山で築いた新しいコミュニティ。そこから広がる今の活動まだまだスタートしたばかり。新たな夢で「農」と「食」をもっと身近に!

岩切 啓太郎さん(写真右)
福知山市出身。農業高校・農業大学校を卒業。好きだったゴルフの世界に飛び込むも挫折。福知山で有機農業を行う法人で働くことになり、農薬・化学肥料を使わない有機栽培の魅力に出会う。農業で独立を志すようになり、地球一周の船旅“ピースボート”に乗船後、日本農業経営大学校に進学。卒業後、地元福知山に戻り、夫婦で新規就農し、農薬や肥料を使わず微生物のチカラを活かしながら、固定種・在来種を中心にした農業を始める。

岩切 康子さん(写真左)
神奈川県出身。学生時代に「食の世界で生きていく」と決意し、様々な飲食店・健康関連の職場で経験を積む。管理栄養士・健康運動指導士として働く中で「“食べる”=“生きる”こと」だと気づく。同時に、ABCクッキングブレッドライセンスを取得し、パン教室を開く夢も抱くようになる。46都道府県・世界27か国を訪れ、2013年には“ピースボート”に乗船。船旅をきっかけに、自家製酵母や天然酵母・こだわりの材料を使った化学合成添加物不使用のパンを焼き始める。

2018年4月、夫婦で福知山市に移住し「86farm」を始める。2019年には「まころパン」のパン工房が完成。現在は農業体験・パン作り教室などの開催に向けても活動中。

2人が世界一周の船旅で出会い「農家×パン」に至るまでのストーリー



ーーまずはお二人が出会うまでのお話をお伺いできたらと思うのですが、啓太郎さんが、ピースボートに乗船するに至った経緯、今の自然栽培の農業に至ったきっかけを教えていただけますか?

啓太郎さん:親に勧められるがまま農業高校・農業大学校に通い、学校では化学肥料や農薬を当たり前に使う農業を勉強していたんですが、なんだか農業に面白みを感じられなくて。

その頃から有機農業には興味を持っていたんですが、十数年前になるので、「有機農業でやっていくのは厳しい」という考えが、今よりももっと強い時代でした。そんな中、地元福知山に帰ってくるタイミングでたまたま見つけたのが、有機農業を行う農業法人(みわ・ダッシュ村)の求人募集でした。

実際にやってみたら、すごく自分には合っているんだなと感じて、どんどんのめり込んでいきました。環境にもよくて、人のからだにもいい。なにより、そういう野菜を求めてくださる人がいる。「つくり手が見える安心安全な食卓を囲める世の中にしたい!」と突き詰めていった結果、最終的には農薬も肥料も使わない、在来種・固定種を中心とした、今行っている自然栽培の農業にたどり着きました。

▲食卓が賑やかになるように、野菜に興味を持ってもらえるようにと、カラフルなお野菜を育てている86farmの畑。採れたてのお野菜はどれも鮮やかで、食べるのが楽しくなる美味しさでした。


ーーなぜ地元の福知山で、農業で独立を志したのでしょうか?

啓太郎さん:この場所が好きだったので、戻ってきたいなっていう気持ちはずっとありました。
生まれ育った地域の田園風景が、どんどん衰退していく様子を目の前で見て、地元の農業を守っていきたいという気持ちが強くなり、独立を目指すようになっていきました。
ただ、福知山の実家のあたりは、由良川の水害のリスクがあるので、農業1本ではなく、6次産業化できる何かが必要だな、というのも同時に考えていました。

いざ独立するとなると、自分には経営の知識が足りないと感じて、東京にある農業経営を学べる農業経営大学校に行くことに決めました。
独立にあたってもう1つ決意したのが、世界一周の船旅”ピースボート”の旅へ出ること。それまで海外には全く、国内の旅行すらほとんど行ったことがなかったので、あまり外の世界を知らなかったんです。就農すると畑から離れるのは難しくなるので、今しかないなって。

▲ピースボートで世界一周の船旅をしているときの様子


ーーその船の上で康子さんに出会われたんですね。康子さんがパン作りに至った経緯、ピースボートに乗るまでのお話も聞かせてください!

康子さん:パンとの出会いは、もう十年以上前にさかのぼります。
学生時代から「食の世界で生きていく!」というのは決めていて、いろんな飲食・健康関連の仕事をしてきたんですけど、管理栄養士として働いていたときに、たまたま会社の先輩が、ABCクッキングスタジオの体験に連れて行ってくれたんです。
実は、そのときはあんまりパンには興味がなかったんですが、「きっとこの先、家でもパンは作ることないだろう」と思って選んだパン教室の体験で、パン作りにすごく癒されて魅了されてしまって。すぐパン作りのコースに入りました。

仕事の合間に趣味としてずっと通っているうちに、パン作りにどんどんのめり込んで、さらに好きになっていって、「将来的に、パン作りを仕事にできたらいいな」と思うようになっていきました。
そのとき働いていたカフェで、営業時間外にオーブンを借りて、パンを作らせてもらうようになり、カフェのはじっこに置かせてもらったり、何かイベントごとがあったら出店したり、ちょっとずつ販売していったのが、はじまりです。

ーー行動力がすごいですね!その後、ピースボートへ?

康子さん:もともと旅が好きで、日本や世界各地を旅してきましたが、その中でも、ピースボートの旅は、いろんな意味で本当に人生最大の転機になりました。

ずっと食の仕事をしてきたんですけど、添加物のことや、農薬や化学肥料を使わない栽培方法があることなど、ピースボートに乗るまではそんなに気にしていなかったんです。栄養士や料理人として働いていたときも、「美味しいものを作る」ことにだけ意識を向けていて、材料はそこまで気にしていなくて。

でも船の上で、夫をはじめ世界各国のたくさんの人たちと出会って、いろんな話を聞く中で、「安心安全な食べ物とは?」「私たちが未来の子どもたちに残せるものとは?」と深く考えるようになり、自分の中での意識が変わっていきました。それが今のパン作りにつながっています。

▲康子さんが作るパンは、一つひとつとても丁寧に、まごころを込めて焼いているのが伝わる、優しくてあたたかい味。添加物は使わず、86farmの自家栽培の農作物はもちろん、生産者の顔が見えるこだわりの材料を使っているので、体にも優しいパンばかりです。


ーそんな2人が船の上で出会って、お互いにそれまでにやってきたこと・将来やりたいことが、ぴったりマッチしたんですね!

康子さん:いい出会いだったと思います(笑)

啓太郎さん:「6次産業化する何か」が、妻と出会ったことで「パン作り」になりましたね。自分ももともとパンの食べ歩きをしていたり、パンが好きだったので。
船を降りてからは、農業経営大学校に2年間通いながら、自分もパンの専門学校にダブルスクールで通っていました。

その後、結婚を機に2人で福知山市に移住して新規就農し、2人の夢、自然栽培の農家とパン工房「86farm &まころパン」を始めました。

食品ロスゼロ。6次産業化して循環する、自然にも人にも優しい仕組み



ーー自然に寄り添った農業の面白さはなんですか?

啓太郎さん:野菜がこんなに大きくなったのは、2021年が初めてなんです。土ができてきたんだな、微生物がうまく活動しているんだなっていうのを感じますね。もともとここの土はガチガチだったんですが、4年かけて今みたいなふわふわな土になりました。自然の動きを手に取るように感じることができるのは面白いですね。

肥料を使う農業だと、肥料に頼っちゃうと思うんですよ。でも、今やっているような農業は、肥料に頼ることがないので、野菜や土の姿を見て、どう接してあげたらいいか考えてあげると、すごく明確にどう接してほしいか見えてくるんです。こうやって自然と向き合うことで、なんか、より、作物に対して寄り添えるというか、そんな気がして。そこも面白味の1つですね。

▲丹波黒大豆の収穫は、本当に完熟したものから1つ1つ手取りで行なっているのだそう。手間ひまがかかる分、味も格別なのだとか。


ーー農家×パンなど、農業と6次産業を組み合わせるのは相性がいい?

啓太郎さん:ここは、土地柄、水害のリスクがある地域なんです。でも、パンに必要な小麦の栽培は水害に遭わない時期なので、小麦は確実に収穫できる。たとえ水害で他の野菜がダメになってしまったとしても、パンを作れば、2人で確実な収益があげられる。農業は水害に限らず、自然の影響を受けやすいので、もう1つ収益をあげられるものがあると安心だと思います。

康子さん:あと、うちの野菜は、自然栽培なので収穫量が少なかったり、固定種・在来種を使ってるので形がけっこうバラバラだったりするんですけど、そういう野菜も自分たちで加工して使えるので、うまく回していくことができています。

啓太郎さん:出荷できない野菜が出ても、すべて廃棄することなく、自分たちで食べる分やパンに使う以外は、野菜ペーストにしているんです。ペーストにしておけば、保存もききますし、それをパンに練り込んで使えば、美味しい野菜パンになります。

康子さん:実はパン自体も廃棄ゼロで、全て売ることができているんです。
うちではパンを焼いてすぐに、急速冷凍させています。水分を保ち、焼きたての美味しい状態のまま保存ができるんです。

焼いて急速冷凍して保存しておけば、イベントごとなど必要なときに必要な分だけ解凍して、持っていくことができるので、無駄にすることも少なくできています。それでも、やっぱり売れずに余ってしまうこともあるんですが、そういうときには「rebake(リベイク)」っていう通販サイトを通して、「ロスパンセット」という売れ残ったパンを承知の上で購入してくださる方へ届けています。

売れ残ったその日にまた急速冷凍して保存しておけるので、リベイクの通販サイトから注文が入るまでも、美味しさを保ったまま発送できるんです。

▲パン作りは、スタッフみんなでアイディアを出し合いながら作っているそうで、子どもたちに大人気のどうぶつパンも、人気No.1の塩バターパンから着想を得て、「塩バター、しおばたー、しば…しば犬!しば犬のパン作ってみよう!」と、生まれたのが始まりなのだそう。


ーーお野菜も全部使えるし、パンも廃棄もなく。全て循環しているんですね。

康子さん:「86farm」の「8」にも「循環」の意味が込められているんですよ。

パンを通して、農業を身近に感じてもらえたり、「農」と「食」のつながりを感じてもらえたら嬉しいなと思っています。今はまだ自家栽培小麦100%のパンがないので、自家栽培の小麦から酵母もおこして、自家栽培小麦だけを使ったハード系のパンを焼きたいんです。今年は、本格的にその開発にも力を入れていきたいですね。

▲康子さんのつながりから福知山に移住したイラストレーターのaccoさんが描いた86farmのロゴマーク。たくさんの想いとストーリーが詰まっています。

福知山で築いた新しいコミュニティ。そこから広がる今の活動



ーーIターンで福知山に移住されている康子さんですが、移住後、どうやって知り合いを作っていったのでしょうか?

康子さん:移住してきてすぐのころは、夫の友達や仕事関係の人しか知り合いがいなかったんです。そんなときに、福知山にある女性のためのワークショップや交流会などを開催している「FLOOP(フループ)」さんの集まりに参加して、人間関係がすごく広がりました。

今、一緒にマルシェに出店させてもらっているママさんグループ「furimama*(フリママ)」さんも、FLOOPのつながりですし、そこでの出会いが今の活動に大きくつながっています。

他にも農業関係だと、由良川沿いの綾部・舞鶴・福知山市で頑張る一次産業に携わる女性のコミュニティ「のら×たん ゆらジェンヌ」も心強いつながりですね。

▲ゆらジェンヌのみなさん

あと、移住してくる前から、夫から「福知山ワンダーマーケット」っていう、他府県からもお店や人が集まるすごく楽しいイベントがあるんだよと聞いていて。実際に夫と一緒に遊びに行ってみたら、「すごい!これはもう、ぜひ私たちも出店したい!」と思いました。今は、私たちも出店させてもらっています。すごく素敵なマーケットで、主催者の方もすごく想いを持ってやっていらっしゃるので、それに私たちも関わっていけるのは、ありがたいですね。


ーーそうやってどんどん人のつながりやコミュニティが広がっていったんですね。

康子さん:福知山の方たち、ほんとみんな優しいんです。

福知山市商工会の方にもすごくお世話になっていて、すごく助けられています。事業で困ったことがあったときはまず、商工会の担当の方に相談すると、いろんな解決方法を探してくれて、本当に親身になってくれるんです。
福知山産業支援センター「ドッコイセ!biz」にも、事業を始めるにあたってHPを作ってもらったり、とてもお世話になっていますし、市役所の方もみんな親切で。福知山、ほんとすごくいいところなんですよ。

ーー啓太郎さんも何か農家さん同士のつながりがあるのでしょうか?

啓太郎さん:今、実は福知山・舞鶴・綾部のオーガニック農家さんが集まった「ゆら・オーガニック」というグループを作っていて。まだ発足したばかりなので、全然進んではいないんですけど、すでに何人かメンバーはいて、オーガニック野菜を適正な価格で売る方法や仕組みづくりをみんなで考えています。

流通に乗せるためには、出荷量がある程度ないといけないので、まとまった量で出していくためにも、やはりチーム農業をやっていく必要があると思っていて。「ゆら・オーガニック」のようなチームを組んで、有機農業をやりたいと思った方が挑戦できるような仕組みづくりを少しずつでも作っていけたらと思っています。

まだまだスタートしたばかり。新たな夢で「農」と「食」をもっと身近に!



ーー今後やりたいことはありますか?

康子さん:今後力を入れていこうとしているのが、体験事業と教室事業。

今は、京都府北部の体験予約サイト「北色 [KITAKIRO]」を通じて少しずつ始めていて、特に、農業のことをまずは知ってもらいたいなと思っています。知ってもらって、みなさんの選択肢の幅を広げられたらいいなという想いがあって。

▲「北色 [KITAIRO]」での季節野菜の収穫&パン作り体験の様子(※「北色 [KITAIRO]」より動画提供)


子どもたちにも、畑に触れる機会をたくさん作ることができたらいいなと思うので、農業体験とか、パン教室とか、単発のものだけでなく、丹波の黒大豆を蒔いて収穫するところから一緒にして、それをお味噌に加工したりとか、小麦をまいて、収穫して、自家製小麦でパンを作ったりとか。そういう1年を通したプログラムとかも構想中です。


ーー自然や四季を感じながら、畑から食卓までを体験できるようなプログラムを考えていらっしゃるんですね!

康子さん:全国から、いろんな方に、福知山に遊びに来てもらえたら嬉しいなと思ってます。

あと、もともとイベントには行くのも好きだし、開くのも好きなので、自宅の空きスペースを使って、なにかやりたいなとも考えています。今は物置になっているスペースもきれいにリノベーションしたら、みんなが集まれる場所になるので。夢が広がりますね。

まだまだ道半ば、半ばというか、まだ始まったばかりですね!

ー岩切さんご夫妻のように、地方で何かやりたい方へ向けて、メッセージはありますか?

康子さん:ここには、応援してくださる方が、本当にたくさんいます。「こんなことやりたい!」と周りに話すと、ほんとみんなで考えてくれるんですよね。いいアドバイスをもらえたり、こういうやり方があるよって教えてくれたり、「一緒にできそうだね」って話になったり、どんどん広がっていきます。そういう人や場所がすごくたくさんあって、人とのつながりが本当に豊かだなって思います。

啓太郎さん:そうですね、自分がやりたいことや夢を応援してくれる仲間が周りにたくさんいるので、1人でやってるんじゃないんだなって、すごく心強く感じます。

康子さん:あと、農薬や肥料を使わない農業も、1つの選択肢として考えてもらえたらいいんじゃないかなって思いますね。いろんな人のいろんな形で、「農」に関わってもらえたら、いいのかなと。

啓太郎さん:なかなかこういう自然栽培の農業でやっていける方って少ないので。自分たちが6次産業化しながら、ちゃんとやっていけることを証明して、いろんな人に見てもらえたらいいな、何か後世に残してつないでいくことができればいいなと思っています。
86farmでは研修生も募集しているので、ご興味ある方がいたらぜひ、お問合せください!

『幸せに生きるコトは幸せに食べるコト』
最初に86farm&まころパンさんのHPを見たときにパッと目に入ってきた言葉。お二人の「農」と「食」をつなげる活動は、生き方にもつながっていて、それは自然や人の循環の中にある。自分たちだけで完結するのではなく、それを次世代につなぎ、伝えていこうと活動されているお二人の想いが、1つ1つの言葉から溢れていて、お二人の中にある強い想いが伝わってくるインタビューでした。

新規就農やパン作りをこれからしたい方がいたら相談にのってもらえますか?とお伺いしたら、「もちろんです!自分たちが伝えられることがあれば、ぜひ!」と笑顔でおっしゃってくれた啓太郎さんと康子さん。まずは気軽にパンを買いに行ってみたり、農業体験に行ってみるのはもちろん、「こんなことやってみたい!」を相談してみるところから、はじめてみませんか。

▼岩切さんご夫妻の活動をもっと知りたい方は:86farm&まころパン
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▼福知山市への移住の相談は:福知山移住「FUKUFUKU LIFE
希望に合わせて地域を案内してくれる「福知山暮らし体感ツアー」も実施しています。

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(文責:京都移住コンシェルジュ 磯貝)