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移住者の声

棚田と狩猟で生きる

米農家として生きる決意

山間部の傾斜地に棚田が広がり、茅葺き屋根の民家が点在する京都府宮津市上世屋集落。どこか懐かしさを感じさせるこの里山に、小山愛生さんは、奥様の有美恵さんとお子さんの三人で暮らしています。前職は新聞記者だったという愛生さん。取材を通じて上世屋集落を知り、その暮らしに惹かれていったそうです。

「棚田での米作りを中心とした村の暮らしは、自然とともにあり、厳しいけれど豊かなものです。春一番に薪にする木を伐り、山菜を採っては保存します。そこには季節のサイクルに寄り添った無駄のない見事なリズムがあります。田んぼを借りて上世屋に通い続けているうちに、地域の人とも親しくなり、移住を決断しました。」

新聞記者から一転、米農家を志して移住した愛生さん。その決意に不安はなかったのでしょうか。

「収入面での不安はありましたが、住めばなるようになるものです。移住前、田んぼを借りて四苦八苦していた時に、上世屋の人たちの無駄がない作業に、『米作りで生活をする人たちのかっこよさ』を感じて、この村で暮らしたいと思ったんです。僕にとっては、そっちの方が重要な関心ごとでした。」

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移住後は収入が激減したそうですが、

「今、自分たちが持っているもの、あるものを使う生活なので、暮らしていく上では何の問題もないです。」

と愛生さんは言います。家賃は都市部とは比較にならないほど安く、野菜は収穫時期なら畑で手に入り、肉も狩猟で獲れたものを使うため、生活費があまりかからないそうです。とはいえ、一定の収入は必要なので、愛生さんは収入を増やすため、耕作放棄地を開墾しながら所有する田んぼの面積を広げています。

「上世屋では田んぼが暮らしの中心にあり、付き合いの基盤にもなっているんです。他に原始布の一種である藤織りも産業として伝承されていますが、やはり米作りの合間を埋めるように続けられてきました。田んぼがなくなると村が変わってしまうんです。だからこそ、僕はここで田んぼを維持し、米農家として生きていきたいと思ったし、今でも同じことを考えている人を募集しています。」

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確固たる覚悟を持つ

愛生さんは、米農家としての自身の暮らしだけでなく、上世屋集落の将来を見据えた活動にも精力的です。地域の方と手を取り合い、農家民宿の開業を計画したり、米作りの閑散期でも雇用が生まれるように獣肉の解体施設の設置を検討したりするなど、地域のこれからを考えて行動しています。有美恵さんも米作りを手伝いながら、「セヤノコ」という団体を立ち上げ、自然体験プログラムを通じて上世屋集落の魅力を伝えています。

最後に、これから移住を考えている方へのアドバイスを伺うと、地域と真剣に向き合う愛生さんらしい答えが返ってきました。

「覚悟は大切だと思います。移住先で、本気で生きていこうという覚悟ですね。覚悟を決めると、地域の人も応援してくれます。きっと、地元の人たちにとっても、移住者が来ることは不安だと思うんです。穏やかな毎日を送っている中に、右も左も分からない者が飛び込んで来るわけですから。迷惑は必ずかけてしまう。生半可な覚悟で飛び込み、迷惑をかけて『やっぱりやめた』では、受け入れた地域の人の心に傷跡を残してしまいます。だから、ここで生きるんだという覚悟をしっかり持って移住を考えて欲しいですね。」

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新しく住む方、受け入れる方、移住は双方の暮らしに少なからず影響を与えます。とくに小さな集落や地域ではなおのこと、覚悟をもって決意することが重要なのかもしれません。

本来の生き方

「いただきます」は「命をいただくこと」と言います。私たちが常日頃、口にしている肉、魚、野菜、穀物などこれらはすべて、私たちと同じ生き物です。

加工されたものを買って食べていると、そのことをつい忘れてしまいがち。でも、何かのきっかけで畑に入り、土から生えている野菜を前に、その蒸せるような香りを吸い込んだときや、海で釣りあげられたばかりの魚がビチビチと跳ねている姿を見たとき、また、身体の形状の名残のある、大きな塊の肉からしたたる血に触れたとき、ああ、これらは私と同じ生き物なのだなあと改めて感じることがあるかもしれません。生きるエネルギーを取り入れているからこそ、栄養になって、元気になる。「いただきます」の語源に立ち返り、本当の「食」を知ることで大切にしたかったことを大切にできる生活が手に入るかもしれません。

太陽や木、水など、自然のものはエネルギーに満ちています。これらを上手に取り入れていくことで成り立ってきた生活。そうやって生きてきた昔の人たちのたくましさに倣う暮らしは、人間本来の生き方なのかもしれません。

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