まち全体がワーケーションのフィールドに。副業人材が活躍する宮津市で、地域と人がクロスする新拠点がオープン
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JR京都駅から特急電車に揺られることおおよそ2時間。京都府北部に位置する宮津市は、若狭湾に面しており、日本三景のひとつ「天橋立」があることで知られています。
美しい自然景観をはじめ、歴史文化、温泉、海・山から採れる新鮮な食材など、観光資源が豊かな宮津市には、2019年度時点で、年間約320万5000人の観光客が訪れていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、市の基幹産業である観光業も大きなダメージを受けました。
予測が難しい社会状況や人口減少などの課題に柔軟に対応していくため、宮津市は2021年度から「市内まるごとワーケーション」をコンセプトに、仕事ができる拠点を整備したり、全国から副業・兼業人材を募集したりするなど、新たな施策を打ち出しています。
そうした取り組みを促進していく役割として、2021年1月に、宮津市・宮津商工会議所・京都北都信用金庫の3社が連携し、「MIYAZU未来デザインセンター(以下、未来デザインセンター)」を立ち上げました。
同センター発のプログラムとして、2020年度には、観光・関係人口・業務改善(DX)の分野で宮津市の課題解決に携わる「①未来プロデュース人材(以後、未来戦略マネージャー)」と、地元企業の課題解決をサポートする「②副業ソリューション人材」を広く募集しました。
未来戦略マネージャーは7名が、副業ソリューション人材は地元企業3社に対して5名が採用され、2021年6月から宮津市で副業・兼業をスタートしています。
これから宮津市を訪れると、どのような関わり方や働き方が見つけられるのでしょうか。 まずは、未来デザインセンターの立ち上げを進めてきた、宮津市企画財政部 企画課 定住・地域振興係の中村善之(なかむら よしゆき)さん、矢野由美子(やの ゆみこ)さんから、施策の背景にある想いを伺いました。
目次 ■ 副業をきっかけに宮津を盛り上げる仲間を集めたい ■ 企業で培ってきた知識や経験を地域で活かす ■ 地元企業が抱える課題と副業人材のスキルをマッチングする ■ さまざまなクロスが生まれる新たな拠点として
副業をきっかけに宮津を盛り上げる仲間を集めたい
地域と「仕事」を通じた新たな関わりを提案していくため、宮津市では、副業・兼業人材を呼び込むプログラムや、サテライトオフィスの誘致、市内にある宿泊施設・飲食店等に関する情報のオンライン化などを進めています。
「宮津市には、バケーションで過ごせる場所やアクティビティがたくさんあります。今後、ワーケーションを目的とする方や移住検討者にも宮津市を訪れていただくために、どのような仕事の機会を提案していけるのかを考えました。そこで生まれたのが『未来デザインセンター』です」(矢野さん)
取り組みの一環として、7名の未来戦略マネージャーを新たに採用し「観光プロモーション」「関係人口づくり」「業務改革(DX推進)」の3つのテーマで課題解決を進めています。宮津市で副業を行うみなさんは、どのような期待で採用されたのでしょうか。
「大手企業の最前線で活躍されているみなさんは世界のトレンドにも詳しいです。私たち行政分野や地域の強み・魅力を掛け合わせながら、宮津市の戦略をつくっていくパートナーとして迎え入れています」(中村さん)
「7名の役割はそれぞれですが、今回採用したみなさんも地域との関わりを見つけた『関係人口』。宮津市の強みである観光資源を活かしながら、ワーケーションやテレワークの促進につなげていただくことを期待しています」(矢野さん)
これまでとは異なる角度から施策に踏み切った背景には、「他の自治体と移住検討者の取り合いになっていないか」「移住を決めた人の数を増やすことばかりが行政の指標になっていないか」など少なからず疑問があったと、おふたりの話はつづきます。
「現在の部署で働いて3年目になり、UIターンをきっかけに地域を盛り上げようとする20〜40代が増えてきた実感があります。こうした人々の姿を見ながら、これからさらに地域を盛り上げていくためには、宮津市に“どのような人が増えるといいのか”を考えるようになりました」(矢野さん)
「これまでは定住人口を増やすことが移住施策の大きな目的でした。ただ、宮津市を盛り上げようとしてくださる方が増えているなかで、その方がどこに住んでいたとしても、地域の活性化に取り組む仲間になっていただくことが大切だと思っています。今回、宮津市とともに働いてくれる方々を広く募集したことで、『地域のためにひと肌脱いでやろう!』という方がたくさんいらっしゃることがわかり、心強さを感じました」(中村さん)
「宮津」をキーワードに輪を広げ、まちが好きな人を一人でも多く増やしたい!と意気込む中村さん。
実際に「未来戦略マネージャー」として活躍する豊田啓道(とよだ ひろみち)さん、佐々木晋平(ささき しんぺい)さんは、宮津市でどのような取り組みを行い、何を感じているのでしょうか。
企業で培ってきた知識や経験を地域で活かす
豊田さんは株式会社オリエンタルランド、佐々木さんはヤフー株式会社にそれぞれ所属しながら宮津市の事業に副業として関わっています。おふたりはなぜ、本プログラムに応募をされたのでしょうか。
「エンターテイメント業界に関わりながら、パークに来場したお客さまをどのように楽しませるかを考えてきました。本業を通して培ってきた経験やセオリーを、社会に役立ててみたいという興味も大きかったです。宮津市は40年間で40%の人口が減少しており、地域の観光産業に対してどのように寄与できるのか、私にとっても新しい領域へのチャレンジになると確信しました」(豊田さん)
「ずっとメディアに関わる仕事をしているのですが、テレビやインターネットは不特定多数を対象にしているのでユーザーの顔が見えにくい。行政や地域の人たちと顔を合わせながら仕事ができることに、まずは魅力を感じました。また、僕自身も京都出身で、子どもの頃に何度か宮津市を訪れたことがあります。現在は、東京が生活のベースになっているのですが、関西で何か力になれることを探していました」(佐々木さん)
それぞれの経験から、豊田さんは観光分野の戦略をつくることを、佐々木さんは関係人口創出の戦略を考えることをそれぞれの役割として、宮津市の施策に参画してきました。就任後はどのようなことに取り組んできたのでしょうか。
「今年度は、主に『ふるさと納税』の新商品開発を進めていました。市役所職員と二人三脚で、新しい商品を100企画。目標数値が急に提示されたのは驚きましたが(笑)、現地へ足を運び、事業者のみなさんにも協力していただきながら商品開発を行いました。プロジェクトごとに関わる部署は異なりますが、市役所の方はとても温かく柔軟な方が多いと感じています」(佐々木さん)
「仕事を通して、宮津市は昔からある日本らしさ・古き良き風景がずっと変わらずに残ってきた場所だと実感しています。実際に、20年前に来たときの印象といい意味でほとんど違いがなくて。観光地であることの魅力も改めて感じましたし、今回をきっかけにもっと宮津市のことを知りたいと思っています」(佐々木さん)
観光分野では3名が採用されており、担当するエリアがそれぞれ異なります。豊田さんは、上宮津(かみみやづ)地区で、農家に泊り、農業体験をする農泊プログラムをつくることになりました。
「はじめて上宮津の方々とお会いした際に、現地を案内して頂き、関係者の皆様が大勢集まって、食事を共にしながら宮津の魅力や課題を話して頂きました。とても熱意を感じ、“やってやるぞ”という気持ちになりました。すでに地域の観光資源を活用した多くのイベント等に取り込まれ、また推進力のあるチームも立ち上がっていたので、週1回リモートで会議をしながら、農泊プログラムのコンテンツ開発と、その事業計画のサポートを行いました」(豊田さん)
豊田さんが伴走したトライアル企画の様子。(写真提供:宮津市)
「メインの農業体験をサツマイモの収穫にし、3ヶ月後にトライアル企画を実施するため、まずはスケジュールを詳細に決めました。私たちが携わるエンターテイメントの体験価値・魅力は、体験内容のインパクトよりも、体験時間の長さに左右されやすいというセオリーがあります。そうした観点から、収穫体験以外に提供できる価値について地域の方と話し合い、火起こしから焼き芋をする、サツマイモの食べ比べを行うなど、上宮津のみなさんの知識が活かせる体験を追加しました。私にとっても、本業で培ってきたエクスペリエンスデザインの知見を活かせた貴重な経験となりました」
未来デザインセンターの取り組みには、豊田さんや佐々木さんのような関わりだけではなく、地元企業と副業・兼業で関わるプログラムも用意されています。 同センターの立ち上げに携わり、「副業ソリューション人材」の募集やコーディネートを担当した京都北都信用金庫 常務理事の足立渉(あだち わたる)さんに、地元企業からはどのような関わりが求められているかを伺いました。
地元企業が抱える課題と副業人材のスキルをマッチングする
今年度取り組んだプログラムは、副業として宮津市内の企業をサポートし、自身の得意分野や経験を活かしながら月額3〜10万円ほどの報酬を得るというもの。実証実験では、受け入れを希望した3社とマッチングを行い、5名の採用に至りました。
「金融機関として、地域の事業者のみなさまとお話をさせていただくなかで、社長の右腕となるような経営や企画系の人材、ITシステムやSNSの活用を得意とする人材が不足していると伺っていました。地方にはそれらの業務経験を持つ方が少ないので、得意とする方に副業として関わってもらうことができればと、今回の募集に至りました」(足立さん)
今年度採用された方々は、EC販売や商品開発に力を入れたい観光事業者のSNS発信サポートや、業務改善を行う地域商社のITシステム導入サポート、地元企業の中期戦略づくりのサポートなど、遠隔からそれぞれの業務に関わりました。
「2015年から私たちも様々な制度を活用し、地域に人材を呼び込むチャレンジをしてきました。ところが、移住が前提となると、住む場所や家族のことがハードルとなってしまう。もどかしさを感じていた矢先に、オンラインで副業人材を募ることが可能な社会となり、地域企業の課題解決につながっていくと感じています」(足立さん)
京都北都信用金庫として、今後は宮津をモデルに京都府北部エリアにも広げるため、市町や地元企業と力をあわせながら、遠隔からでも副業が可能な企業や職種の発掘を進めています。そうした人の流れをソフト・ハード両面から促すため、未来デザインセンターの拠点となる新たな施設がまもなくオープンを迎えます。
さまざまなクロスが生まれる新たな拠点として
2022年春にオープンを予定している「前尾記念クロスワークセンターMIYAZU(以下、クロスワークセンター)」。
これまで手がけた取り組みとの相乗効果も見込まれ、関わるみなさんの期待も高まります。この場から、どのような交流が生まれていくのでしょうか。 「仕事で利用していただくことはもちろんですが、専用の場所というよりは、ライフワークとしての活動やつながりもクロスしていく場にしていきたいですね。クロスワークセンターに来たら、自分の想いを実現していけるようなイメージでしょうか。まずは定期的にイベントを開催する予定なので、ワーケーション利用や副業をしたい方、移住を考えている方、地元の方にも気軽に訪れてもらえる機会をつくれたらと思っています」(矢野さん)
クロスワークセンターの内観。これからどのようなクロスが生まれていくか、とても楽しみです。
今回、未来デザインセンターを立ち上げたことで、副業先として宮津市のポテンシャルを感じた足立さん。ともに地域を盛り上げてくれる方、遠くから故郷に関わりたい方にも訪れてもらえる場所にしたいと考えているそう。
「外から宮津に関わりたいと戦略マネージャーに応募してくださった470名に対して、地元企業への関わりをそれぞれ提案できれば、たくさんの方が関係人口として宮津市と関わってくれることになります。最近は、地域資源を活かした起業や商品開発を考えている若い世代も増えてきました。宮津にUIターンされた方や、地域企業に勤める方と交流する場をつくることで、おもしろいビジネスがクロスワークセンターから生まれていくのではないかと期待しています」(足立さん)
「そのためにも、クロスワークセンターでは、地域側の企業が抱えている課題に対してPBL(Project Based Learning)型の研修等の受け入れを行い、副業人材や企業間のコラボレーションが生まれる機会をつくっていきたいと考えています」(足立さん)
クロスワークセンターは、これまで地域ではあまり馴染みのない業種・職種の方々の利用も予定されており、地元の子どもたちにとっても多様な未来を描ける場所になることが期待されています。
「市外からの利用を促しながら、地元の高校生が多様なキャリアに触れられる場所にもしていきたいです。同じ空間にいることで子どもたちは何らかの刺激を受けていくと思いますし、そのような世代間のクロスもつくっていきたいですね」(中村さん)
「これから利用していただけるみなさんに共通する体験として、『自分がやってみたい!』と思ったことをクロスワークセンターで実現できる機会をつくっていきたいです」(矢野さん)
新たな人の流れが生まれる拠点として、仕事やライフワークなど世代を超えてさまざまなコラボレーションが期待されているクロスワークセンター。これから訪れるみなさんの想いや、地元の方のチャレンジなど、様々なクロスが起こる場となることでしょう。副業で地域に関わるきっかけがほしい、海を眺めながらワーケーションがしたい、経験やスキルを活かして地域の役に立ちたい、そのように思われたみなさんはぜひ、クロスワークセンターを訪れてみてください。
前尾記念クロスワークセンターMIYAZU 営業時間:午前9時〜午後9時(年末年始を除く) 利用料金: 市内在住 市外在住 3時間未満 330円 550円 3時間以上 550円 1,100円 月額会員 3,300円 5,500円 設 備:エアコン、wifi、AC電源完備、個別ブース席あり 共用部分にはプロジェクターやウェブカメラ、シャワー(有料)あり 住 所:〒626-0041 京都府宮津市鶴賀2164−2 お問い合わせ先:[email protected] |