和束町まちづくり地域資源活用観光

地域に根ざした仕事とは?暮らす人が笑顔になる観光と移住

2021.08.31

湊美香さん(和束町)


今回は京都府南部、和束町(わづかちょう)にIターンで移住した湊美香さんからお話を伺いました。
お茶の産地、和束で、新しい仕組み作りをしながら観光と移住事業に取り組む湊さん。和束との運命的な出会いや移住までの経緯、観光や移住事業に携わるようになったきっかけ・そこにかける熱い想いなど、「地域に根ざした仕事がしたい」方へのヒントがたくさん詰まったお話をお伺いしてきました!

目次
■ プロフィール一目惚れした和束町。偶然の出会いを呼び寄せた湊さんの行動とは?地域の人のため、そこに暮らす人のためにある、観光まずは仕組みづくりから。和束の移住事業への挑戦和束の魅力。田舎の魅力。自分の好きなことで地域と関わる

湊美香さん
奈良県出身。整体師やJTBのツアー添乗員などを経て、2014年に京都府和束町に移住。
2015年から地域団体「和束町活性化センター」で働き、観光交流事業に携わる。2017年から農泊事業に参画し、町内外をつなげる仕組みを整備するほか、和束のお茶を使った観光づくりに取り組む。2019年から和束町の移住定住促進事業にも携わり、空き家の開拓・仕組みづくりを進めながら、移住希望者の伴奏支援も行い、人・モノ・地域をつなげる架け橋となっている。

一目惚れした和束町。偶然の出会いを呼び寄せた湊さんの行動とは?



――和束への移住のきっかけは?

湊さん:実家のある奈良から、滋賀県の信楽(しがらき)に遊びに行った帰りに道に迷い込んでしまって、たまたま車で和束を通りかかったんです。「ここどこ?!」という感じで。
でも、今でもそのときのことを鮮明に覚えているんです。夕方薄暗くなってきた17時半くらい、茶畑がパーっと広がるところがあって、それを見た瞬間に圧倒されて、「あ、ここやわ」と、一目惚れしてしまいました。

奈良に帰るなり、「私、和束に移住するわ」って、即決してました。
こんな偶然の出会いから、こんなにも好きになる土地が見つかるなんて思ってもいなかったです。

▲一目惚れした和束の茶畑の中で。「お茶ってアートだと思うんです」とお茶の魅力を伝えてくれた湊さんの笑顔が印象的でした。


知り合いも誰もいなかったので、最初はとにかく休みのたびに和束に足を運びました。カフェに寄ってみたり、まちを散策してみたり。
あるとき、たまたま道端で、地元の人(山下さん)と出会って、いろいろ話をしていくうちに、「私ここ(和束)に住みたいんです」と話したら、「え、じゃあ、家紹介しよか!」と。当時、和束に1軒だけあったシェアハウスを紹介してくれたんです。

そのシェアハウスでは、元笠置町地域おこし協力隊の藤田さんとの出会いや、今でもつながりのある人とのたくさんのご縁がありました。


――すごい出会いですね!その後はどうやってお家を探されたんですか?

湊さん:紹介してもらったシェアハウスに住みながら、本格的に家探しも始めていきました。まずはコミュニティに入って、「湊さんだったらいいよ」と言ってくれる人に家を借りられたらいいなと思って。

とにかく行動あるのみやなと思い、休みのたびに近所を回って声をかけていました。茶農家さんのところに行って「お茶のことを勉強したいんで、お手伝いさせてください」とお願いしてみたり、たまたま空き家改修をされているところを見かけたら「手伝います〜!」と、そこに関わらせてもらったり。
相手も喜んでくれるし、私自身もつながりを作ることで、お茶や地域のことをもっと知りたいという気持ちがあったので。当時は、ただただ楽しくてやっていた感じかな。

そうやって、少しずつ知り合いや地域の人とのつながりを増やしてくうちに、ある人から「あそこのお家、売り物件として出てるで」と声がかかって。私は賃貸で探していたんですが、「古いお家自体にも興味あるし、一度見に行かせてもらおう」と、お家訪問みたいな感じで、見させてもらいに行ったんです。

そしたら、大家さんが私のことを気に入ってくださったみたいで、「美香ちゃんやったら、もう貸してもいいわ〜」と言ってくれて。売り物件だったのが、急遽賃貸物件になったんです。大家さんがお家を出たのと同時に、そのまま住まわせてもらいました。


――コミュニティに入って、丁寧につながりを作っていったからこその出会いですね。

湊さん:お家を決めて、綺麗にリノベして、準備して準備して、移住するのも、もちろんいいと思うんですけど、とりあえずこっちに住み始めて、「コミュニティに入る」ということをまず考えてみても、いいんじゃないかなと思っています。

私が単身だったからできただけで、やっぱご家族がいたり、お子様がいたりしたら難しいんだろうなと思うんですけど。もし身軽に動けるんであれば、「もう、とにかくおいで!」という感じですね。私が知っている人なら、誰でも紹介するので!

地域の人のため、そこに暮らす人のためにある、観光



――今の仕事はどういうご縁で始められたんですか?

湊さん:和束に住み始めて1ヶ月くらい経ったときに、良くも悪くもこのまちの課題と魅力がだんだん分かってきて、このまちで「こんなことがしたい!」というのができてきました。それが農村民泊体験(以下、農泊※1)だったんです。

(※1 地域の受け入れ家庭が、修学旅行生などを家族の一員として迎え、お茶の仕事や田舎の生活など、暮らしのすべてを共にし体験するプログラム)

もともとツアーの添乗員をしているときに、修学旅行のアテンドで、生徒さんたちを各地域の農泊へ連れて行っていたんですけど、農泊って子どもたちにとっていい体験なだけでなく、受け入れ側の家庭さんも毎回すごく楽しそうなのを肌で感じていました。

修学旅行のスタイルが、人との触れ合いを重視したものにどんどん変わってきている現状や、それをまちづくりの一環として取り入れる地域が増えていることを知っていたので、農泊をこの和束でもできたら、すごくいいのになと。京都と奈良の市街地の間にあって、少し足を伸ばすだけで豊かな自然が広がっているので、立地的にもすごく可能性がある地域だと感じていました。

そこで、知り合いのつながりから和束町雇用促進協議会の次長さんに、「私、このまちでこういうことをしたいんです!」と自分の想いや考えを伝えてみたんです。そしたら、「それをできるのは和束町活性化センターだから、紹介してあげる」と紹介してくださって。
ちょうど活性化センターでも、農泊のような制度を作り始めようとしていたところだったんですよ。そういう動きがある中で、活性化センターに雇ってもらえて、やりたかった農泊にも携わることができて、今があるという感じです。

▲2017年から和束での農泊に携わっている湊さん。湊さんの働きや地域の方の協力により、少しずつ事業も大きくなり、2018年には280人もの生徒さんを受け入れたのだそう。


――やりたいこととその想いを伝えたことで、同じ方向を向いて動いている地域団体と出会えたんですね。農泊の魅力はなんですか?

湊さん:農泊に携わっていて本当によかったなと思ったのが、農泊の受け入れ家庭のお母さんが「あなたたちのおかげで、人生変わったわ」と言ってくれたときで。
普段、美味しい料理や畑で美味しい野菜を作っても、それは当たり前の日常でしかなかったけど、農泊で都会の子どもたちが「すご〜い!」とか「美味しい〜!」とか、すごく喜んでくれて、「もうなんかそれだけで、ほんまに嬉しくってな〜」と、受け入れ家庭のお母さんが嬉しそうにお話してくれたんです。

料理が得意なお母さんがいたら料理を、竹細工が得意なお父さんがいたら竹細工を、なにか得意なことをして、それを喜んでもらえたら、ものすごく幸せなことやなって。農泊は、特別な知識とか技術がなくても、お家さえあれば誰でもできるんです。


――農泊を始めてから、地域として変わったなと感じることはありますか?

湊さん:みんな、それぞれの暮らしがあるから、ただ日常を過ごす中で、地域みんなで同じ目的を持つことってなかなか難しいと思うんです。

でも農泊は、例えば300人の受け入れをするのに、それだけの数の受け入れ家庭さんが必要で、それぞれの家族に4〜5人いたりすると、すごく関わる人が多いんです。そこに関わる人たちが、「ただただ子どもたちに楽しんでもらいたい」という同じ目的を共有できるんですよ。
だから、今まで全然知らなかった町民さん同士も、「今度この子ら来るときご飯何作るの?」とか、「前こんな体験したらめっちゃウケたで」とか、自然と情報交換をしていて。農泊があることで、横のつながりが広がったんじゃないかなってすごく感じます。

地域のみんなが同じ目的を持てることってすごく強いなって。チームとしてもコミュニティとしても、大切なことだなと感じます。


――農泊は”観光”としての側面だけでなく、”地域の人同士をつなげる”という側面もあるんですね。

湊さん:観光というもの自体が、地域の人のためにあるものだと私は思っていて。

和束に来てすぐの頃は、どちらかというと生徒向きで農泊をやりたいなと思っていたんです。でも、この事業を始めて1ヶ月も経たないうちに、「農泊っていうのは地域の人のためにあるもんやな」ということをすごく感じて。

観光のやり方っていっぱいあると思うけど、そこに暮らす人たちに観光という手段で関わってもらって、地元の人たちが本当に楽しめるものじゃないと、意味がないなとすごく感じます。常に自分は、そこに暮らす人たちの方に目線を向けていたいなって。
さらに、遊びに来てくれた人に、どれだけ地域の人と出会ってもらえるか。その機会をどうやって作っていけるかが、自分たちの仕事の神髄で、観光というもののあり方なんじゃないかなと思ってます。

▲農泊に来た海外からの大学生と、その受入家庭さんの集合写真

まずは仕組みづくりから。和束の移住事業への挑戦



――昨年度から、観光だけでなく移住事業にも携わっているんですよね?

湊さん:和束に移住してから、最初は観光だけに携わっていたんですけど、観光だけだと「なんか違うな」という気持ちがずっとありました。移住呼びかけ人(※2)にも加わっていたんですが、だんだん自分の中で違和感を感じてきてしまって。

(※2 京都府(山城広域振興局)が府南部の相楽東部地域の移住生活の魅力を伝えるために認定した先輩移住者たち)

外向けに和束の魅力を発信して、実際に和束を気に入ってくれた人たちが、個人的に移住の相談をしてくれたり、空き家探しをお手伝いしたこともあったんですけど、そこにはやっぱり限界があって。活用できる空き家が少なくて「今空き家ないんです..」と伝えるしかない現状がすごく辛かったです。

やっぱりまずは町の制度をしっかり活用することから。「制度を実行する仕組みをきちんと作り上げない限り、これは全然進まへんわ」と感じました。
役場と一緒に連携した方が、お互いにwin-winなんじゃないかなと思って、自分の想いを伝えてみたら、昨年度から活性化センターに移住事業も委託してもらえるようになり、今は和束町役場と連携しながら、移住定住促進事業も担当しています。


――具体的にはどんなことをされているんですか?

湊さん:私の基本的な仕事は、空き家を持っている大家さんと移住希望者さんをマッチングすることなんですが、空き家や人の財産に関わらせてもらうのって、すごく奥深いことだなと、日々感じています。
その方の人生に寄り添って、とことん付き合っていくような覚悟というか、大家さんとの信頼関係を築く必要があって。信頼関係がないと、「私が紹介する人に家を売ってもいいな」と思ってもらえないと思うので。

移住相談の連絡をくれた人には、ものすごく丁寧に、全力で対応するようにしています!自分が移住してくるときにも、いろんな人に助けてもらったから。でも、それと同時に、もっと頼れる人がいてくれたら、よかったなとも感じていたので。


――湊さんが移住相談に乗ってくれたら、すごく心強いですね。空き家のマッチングの難しさは、どんなところにあるのでしょうか?

湊さん:実際空き家はあるんです。でも、さまざまな弊害があって、流通していないんです。大家さんからすると「手続きが面倒くさそう」とか、1番よく聞くのは「近所とうまくやってくれない人に来てもらったら困る」とか。そうなったら、みんなが安心して貸したり売ったりできる仕組みを作るしかないなと。

奈良の「空き家コンシェルジュ」さんがされているサブリースの仕組みがすごくいいなと思っていて、直接連絡して事務所に行かせてもらったり、いろいろ学ばせてもらっているんですけど、そこでは、空き家の掘り起こし(※3)は、それほどやっていないそうなんです。自ら掘り起こしをしなくても、自然と空き家が集まってくる仕組みができているみたいで。

(※3 市場に流通していない空き家の所有者を特定し、売買や賃貸に出してもらうよう交渉すること)

だから和束でも、大家さんから「ぜひとも使って。あんたらに任せたいわ」と言ってもらえるような仕組みから作っていきたいなと考えています。大家さんの不安を取り除いて、安心して貸せる・売れるようになったら、根本的な解決になっていくと思うんです。

和束の魅力。田舎の魅力。自分の好きなことで地域と関わる



――湊さんも魅了されたお茶畑。やはり”お茶”が、和束の魅力にもつながっているんでしょうか?

湊さん:和束町民さんに「和束といえば何ですか?」と聞いた時に、多分100人が100人とも「お茶」と答えると思うんです。そういう産業があるのって強いなって、観光の仕事をしていても、地域活動をさせてもらっていてもすごく思います。

「茶畑を守るためには、移住も促進していかなきゃいけないよね」とか「茶文化を発信して、後世につないでいきたいね。じゃあ子どもたちが体験できるように、修学旅行の受け入れをしよう」とか。
みんなの共通認識としてある「お茶」という産業を中心にして動いていけるので、みんなが同じ方向を向いてまとまりやすかったり、コミュニティ作りにとっても、すごく大きいなと感じます。


――和束に移住したからこそ感じる田舎ならではの魅力はありますか?

湊さん:農泊も移住事業もですが、「言えば叶うもんやな」って、すごく感じます。まずは、言ってみることが大切なんだなと。田舎の方が実現しやすい環境があるんですよね。

田舎は横のつながりが強いからこそ、協力してくれる人がたくさんいる。本当に自分が何をしたいのかを声に出したら、それが叶えられる場所だと思うんです。


――「地域に貢献できることがしたい」という方に向けてメッセージをお願いします。

湊さん:「地域のために、なにかしなくては」と考えすぎずに、自分の好きなことをただその地域でやってみる、それだけで充分だと思います。自分のできること・好きなことで地域と関わりを持つことが出来たら、そこにはきっと人が集まるし、それを通してその地域のことをもっと多くの人に知ってもらえると思うので。

私は人をつなげたりすることが、もともと好きだったから、たまたま「地域のため」に直結してるだけだけで。写真が好きなら、和束の写真を撮ってインスタにあげるだけでも十分だと思うし、料理を作るのが好きなら、いつもの料理に少し和束産の煎茶入れてみたりとか。
そんな感じで、「地域のために」って強く思わなくても、ただ好きなことで地域に参加してもらえたら、それだけですごく嬉しいなって思います。

和束への愛が本当に溢れていた湊さん。観光も移住も、和束が好きで、そこに暮らす人が大好きだからこその熱い想いが、お話を通して伝わってきました。

湊さんのように、まずは一歩踏み出して、コミュニティに入ってみて、そこでできたつながりや、そこから見える景色から、やりたいことや家・仕事を探してみるのはいかがでしょう?

▼ 湊さんが働く「和束町活性化センター
体験型ツアーや観光・イベント情報なども。和束に訪れる際は、まず一度ご覧ください!

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(文責:京都移住コンシェルジュ 磯貝)